『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』の感想

デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場 (集英社文庫(日本)) [ 河野 啓 ]

価格:825円
(2023/2/17 23:57時点)
感想(1件)


以前、ネットサーフィンをしていて知った本。
栗城史多さん: 日記
http://fanblogs.jp/esitzel/archive/10/0?1650981811
私は山に興味がなく、リアルタイムでの活動は全く目にしていなかった。
しっかりと取材されていて面白い本だった。悲しい気持ちにはなったが。
栗城史多さんに関しては、やっぱりよく分からない人だという感想を抱いた。こういうタイプの人とたぶんいままで出会ったことはない。
栗城史多さんは一体どういう人なのだろうか。
著者の作る番組が一番早い放送になるように約束したのに、その約束が反故にされる。(p105-106) 栗城さんをマネジメントしているO氏が表立ってやり取りしている形式のようではあるが。そして企画は流れてしまう。この件で一番責任があるはずの栗城さんは「大人の変な駆け引きはうんざりです」と被害者ヅラ。(p107-108)
著者の書いた企画書の文章がYahoo!の特設サイトにコピペされてしまう事件も起きた。(p140-141)
どうやら栗城さん本人のしわざらしい。文章を勝手に使うのはどう考えてもアウトでは……
他には、
Twitterではエリザベス・ホーリー氏に褒められたと嘘の投稿。(p210)
イモトアヤコさんがマナスルに登頂したことを番組放送前に漏らす。(p226)
クラウドファンディングで費用を集めたのに、事前に説明していた中継がほとんど行われずひどい結果に。(p249)
こういったことが表に出てくると、ネットでバッシングされるのは必然だと思う。
昨今、誹謗中傷が問題になり、ネットで否定的なことを書きづらくなっているが、正当な批判は必要なことだと思う。命の危険があったり、怪我をしやすい分野では、実力の追いついていない人を持ち上げることのないように。
今後は、登山界隈では栗城さんのようなことをしても通用しないといいなあ。
一番しっくりきたのは、斉藤勤さんの言葉。
「お母さんも亡くしてるし、お父さんには障害がある、栗城はそういう背景というか、傷を持って育ってきたと思うのさ。(中略)たぶん栗城には、『自分という人間がいるんだぞ』って見せつけたいっていう思いが、根っこにあったんじゃないかな」(p134)
何か大きなことをして、自分を見せつけたい人。いわゆる自己顕示欲が物凄く強い人なのかもしれない。自己顕示欲や承認欲求という言葉は軽く使われがちだが、この人のは本物であろう。
なぜ山にこだわり続けたのか不思議に思う。山から離れたら、周りから人が消えると思ったのか。他の登山家ほどではないにしろ、山が好きだったのか。
著者に「登頂の生中継ができないとしたらどうしますか?」と聞かれて、「それならエベレストには行きません。」(p143)とは答えたものの。
凍傷で指を失って絶望する人がやっていい登山の仕方じゃなかったんだろうなぁとは思ってしまう。
しかも、自分でわざと凍傷させた疑惑がある。(p218-219)
なのに指が生えるのではないかという期待を抱いて怪しい治療をするのだ。
そしてそれを医学生に「いちど死んだものは生きかえらない」と突っ込まれる……
このあたりはあまりにも痛々し過ぎて読むのがつらい。
懇意にしていた占い師には、「指を失くしたら人生は終わり。死に場所を探してる」と言っていたとの証言がある。(p333)
栗城さんの事務所の商業登記簿に、事業の目的として色々な内容が書かれていたらしい。(p280-281)
スポーツの指導や、変わったところでは農産物・海産物の販売、漢方薬の輸入販売など。登山をやめた後について全く考えていなかったわけではなさそうなのだが……
占い師には、結婚は不安になる。子供ができたら幸せにする自信がないというようなことを語っていたと……(p327) そういうところは責任感があってまともなように思う。
うーん どういう人なのかよく分からない。
最後まで読んでみて、栗城史多さんは苦手なタイプの人間だと思った。
でも、ずるい印象を受ける人にも色々なつらさや悩みがあるということを再認識し、栗城さんにお疲れ様と言いたい気分になった。
栗城史多まとめ @ ウィキ – atwiki(アットウィキ)
https://w.atwiki.jp/kuriki_fan/
上記のサイトに、本書で紹介されていない興味深いエピソードが色々載っている。