『ヒッタイトに魅せられて』の読書メモ

ヒッタイトが舞台の漫画『天は赤い河のほとり』を描いた篠原千絵先生と考古学者・大村幸弘先生の対談。

子供の時は何も思わなかったけど、大人になってから考えるとあの漫画を描くのはすごく大変そうだ。衣装、建物、食べ物、なにもかも。
「キックリ文書」を解読してまとめた本がドイツ語版しかなく、小学館の編集者がドイツの知り合いに頼んで入手。日本語に翻訳してもらって読むなどといった苦労があったとか。(p270-271)
篠原先生はヒッタイト帝国内の先住民族ハッティの少女を主人公に想定していたらしい。現代日本の女の子を主人公に、というのは編集部の提案。(p25)
ちょっと『王家の紋章』みたいになってしまったのは編集部のせいかw

ユーリが日本に帰るのか、そのまま残るのか当時ハラハラして読んだけど、最初から全く帰らせる気はなかったんだなぁ。
p80(大村)

イラクやシリアでは「イスラム国」(IS)が力を持ちはじめたことで、考古学の発掘調査は完全に中断してしまいました。

そんな影響が……
情勢が不安定だとビジネスに影響があることは知っていたが、発掘ができなくなるというのはあまり考えたことがなかった。
2004年あたりはイラク戦争の影響で建設資材が値上がりして資金が足りなくなったという話も。(p86)
大村先生は出土遺物をすべて収蔵して整理しているらしい。(p132-134)
p135(大村)
 

遺物を取捨選択することは、ある意味では捏造にも結びつく可能性がある。

必要な遺物を取り上げてそれ以外は捨てるのはわりとあることらしい。
素人からすると貴重そうなものを捨てることにびっくりするけど、考えてみれば全部とっておくのは難しいか。
他、発掘の権利を得る大変さの話など興味深かった。

『私はだんだん氷になった』の感想

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最近、ネットの作品で「何でも許せる人向け」という注意書きがあるようだが、そんな感じの作品。おすすめだけど、万人向けではないのでちょっとおすすめしづらい。
アイドル、栗城史多さん、Vtuberなど、現実にあった話題や要素を非常にうまくまとめている。ここまではっきり最近の人物がモデルだと分かりやすい小説はあまり読んだことがなく、こういうことをする勇気がすごいと思った。しかも面白い要素として、自分の作品の中に違和感なく組み込むとは。
以下、多少ネタバレを含む。

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『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』の感想

デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場 (集英社文庫(日本)) [ 河野 啓 ]

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以前、ネットサーフィンをしていて知った本。
栗城史多さん: 日記
http://fanblogs.jp/esitzel/archive/10/0?1650981811
私は山に興味がなく、リアルタイムでの活動は全く目にしていなかった。
しっかりと取材されていて面白い本だった。悲しい気持ちにはなったが。
栗城史多さんに関しては、やっぱりよく分からない人だという感想を抱いた。こういうタイプの人とたぶんいままで出会ったことはない。
栗城史多さんは一体どういう人なのだろうか。
著者の作る番組が一番早い放送になるように約束したのに、その約束が反故にされる。(p105-106) 栗城さんをマネジメントしているO氏が表立ってやり取りしている形式のようではあるが。そして企画は流れてしまう。この件で一番責任があるはずの栗城さんは「大人の変な駆け引きはうんざりです」と被害者ヅラ。(p107-108)
著者の書いた企画書の文章がYahoo!の特設サイトにコピペされてしまう事件も起きた。(p140-141)
どうやら栗城さん本人のしわざらしい。文章を勝手に使うのはどう考えてもアウトでは……
他には、
Twitterではエリザベス・ホーリー氏に褒められたと嘘の投稿。(p210)
イモトアヤコさんがマナスルに登頂したことを番組放送前に漏らす。(p226)
クラウドファンディングで費用を集めたのに、事前に説明していた中継がほとんど行われずひどい結果に。(p249)
こういったことが表に出てくると、ネットでバッシングされるのは必然だと思う。
昨今、誹謗中傷が問題になり、ネットで否定的なことを書きづらくなっているが、正当な批判は必要なことだと思う。命の危険があったり、怪我をしやすい分野では、実力の追いついていない人を持ち上げることのないように。
今後は、登山界隈では栗城さんのようなことをしても通用しないといいなあ。
一番しっくりきたのは、斉藤勤さんの言葉。
「お母さんも亡くしてるし、お父さんには障害がある、栗城はそういう背景というか、傷を持って育ってきたと思うのさ。(中略)たぶん栗城には、『自分という人間がいるんだぞ』って見せつけたいっていう思いが、根っこにあったんじゃないかな」(p134)
何か大きなことをして、自分を見せつけたい人。いわゆる自己顕示欲が物凄く強い人なのかもしれない。自己顕示欲や承認欲求という言葉は軽く使われがちだが、この人のは本物であろう。
なぜ山にこだわり続けたのか不思議に思う。山から離れたら、周りから人が消えると思ったのか。他の登山家ほどではないにしろ、山が好きだったのか。
著者に「登頂の生中継ができないとしたらどうしますか?」と聞かれて、「それならエベレストには行きません。」(p143)とは答えたものの。
凍傷で指を失って絶望する人がやっていい登山の仕方じゃなかったんだろうなぁとは思ってしまう。
しかも、自分でわざと凍傷させた疑惑がある。(p218-219)
なのに指が生えるのではないかという期待を抱いて怪しい治療をするのだ。
そしてそれを医学生に「いちど死んだものは生きかえらない」と突っ込まれる……
このあたりはあまりにも痛々し過ぎて読むのがつらい。
懇意にしていた占い師には、「指を失くしたら人生は終わり。死に場所を探してる」と言っていたとの証言がある。(p333)
栗城さんの事務所の商業登記簿に、事業の目的として色々な内容が書かれていたらしい。(p280-281)
スポーツの指導や、変わったところでは農産物・海産物の販売、漢方薬の輸入販売など。登山をやめた後について全く考えていなかったわけではなさそうなのだが……
占い師には、結婚は不安になる。子供ができたら幸せにする自信がないというようなことを語っていたと……(p327) そういうところは責任感があってまともなように思う。
うーん どういう人なのかよく分からない。
最後まで読んでみて、栗城史多さんは苦手なタイプの人間だと思った。
でも、ずるい印象を受ける人にも色々なつらさや悩みがあるということを再認識し、栗城さんにお疲れ様と言いたい気分になった。
栗城史多まとめ @ ウィキ – atwiki(アットウィキ)
https://w.atwiki.jp/kuriki_fan/
上記のサイトに、本書で紹介されていない興味深いエピソードが色々載っている。

『大人のための児童文学講座』の読書メモ

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今まで読んできた物語にそんな意味があったのかもしれないのか、と色々発見があって面白かった。
・若草物語
『若草物語』は社会が要請する「小さな婦人」へと成長をとげる物語だと解説されている。
「表向きは社会の要請どおりに描きつつ、ジョーのような新しい女の子像を、読者にちらりと見せてくれたのです。」(p.17)
若草物語からそういうメッセージを受け取った覚えがあまりない。しかしそう言われてみると、『続若草物語』では、メグが立派な主婦になるまでの涙ぐましい過程が描かれているので納得する。

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感想(2件)


・あしながおじさん
あしながおじさんは、主人公のジルージャを支配したい欲望があからさまであると。自分の身分を明かさず、選択の余地のない孤児の女の子に手紙を書かせている。
そういえばそんな状況だったか……
そしてあしながおじさんは思い通りに支配できないジルージャを好きになり、マッチョな態度をやめることになる。
p.24

マッチョなあなたのままでは出会えない……
そんなメッセージが、この物語には秘められています。

・人魚姫
p94

人魚姫の物語に共感していた子ども読者は、最後で、「よい子」になることを求められてしまうのです。

自ら死を選んだ人魚姫は、三百年後には人間と同じように魂を授かると教えられる。
ただ、子供向けの翻案や抄訳はこの部分が省略されているものが多い気がする。私は完訳版を大人になってから読んだ。人魚姫が死んだ後が意外と長くてちょっと驚いた記憶がある。

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『SNSで繋がるあの人 君色パレット 多様性をみつめるショートストーリー 』

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如月かずさ「プロジェクト・チュウニ」がすごく良かった。

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ホシナカズキ『できる100ワザWordPress 必ず集客できる実践・サイト運営術』感想

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大体知っていたけど、[メディアを挿入]→[ギャラリーを作成]機能は見落としていた。
たくさん写真を載せたい時に便利らしい。

『給食委員はアイドル』の感想

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面白かった。問題解決の方法は好き。
でも、給食問題については色々考えてしまう。
・あらすじ
ルミは道行く人が振り返るほどかわいい女の子で、三歳の時から芸能活動をしている。給食が大好きで、給食委員になった。
『プリティ・ガールズ』という雑誌で、ルミと一緒にモデルをやっているカオルが、ルミの学校に転校してくる。
以下、ネタバレ有り。

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『冲方丁のこち留』

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奥さんの顔を殴って前歯破損させた疑いで逮捕された事件について書かれた本。
冲方丁先生の名前は知っていたが、逮捕されたことがあるのはこの本を手に取るまで知らなかった。
「私は殴ってないし、彼女の歯も折れてなんてないでしょう。そういえば差し歯を治したいと言っていたので、そのことじゃないですか」(p20)
そもそも殴っていないのならそういう問題ではないが、素朴な疑問として、ぶつかったはずみで差し歯が外れたら「前歯破損」になるのかどうか気になってしまった。
容疑者が警察に証拠の在りかを漏らすと良くないという話が興味深かった。先に弁護士に言わないといけないらしい。
警察が先に監視カメラのデータを押収すると、無実を証明できないようにする隠蔽工作が行われる可能性があるとか。(p78)
著者の弁護士がマンションの管理人にカメラの映像提供を求めたところ、もう警察に渡したからと門前払いされたらしい。(p112)
“世間では「証拠を集めるのは警察で、被疑者の弁護士などに同じものを渡してはいけない」といった考え方が根強く、そう簡単にはいきません。”
(p112)
自分が容疑者になったら余計な情報を漏らさないように気をつけたいし、情報提供する立場になったら平等に証拠を渡したいと思った。
そもそも何が起こったの? なんでこんな目に遭うの? と最初のほうを読んでいる時から、ずっともやもやするが、結局奥さん側の状況は明らかにならない。これは現実に起きた事件なので。分からない部分、分かっても書けない部分が多いのだろう。
p163

妻に法的な知識を入れ知恵する人間がいたとしても――いないと辻褄が合わないのですが――それは、あくまで夫である私に対し、金銭面をふくめ何らかの利益を得ようとしたためにすぎず、何者かが一計を案じて私の名誉を貶めようとした事実はないでしょう。

ということは書かれているが。
こういうことをしても親権は奥さんにあって、父親は子供に会わせてもらえないのか。
警察と司法の不条理はかなり詳細に語られていて、読んでいて怒りもあるが、すっきりするくらいだ。そうなると、読者としてはあまり語られていない親権周りの不条理もかなり気になる。
p186
「逮捕以降、本書を執筆している現時点まで、私は子どもたちに一度も会うことができずにいます。」
「頑張って働かなければ、愛する子どもたちの生活が立ちゆかなくなってしまいます。」
この件はDVをでっち上げたもの勝ちになっている気がするのだが……
調べてみると虚偽DVに関する記事は色々と見つかる。
少し調べた範囲だと、比較的良い結果でも子供とは会えなくなっているケースが多いような気がする。このあたりも今後改善されていってほしい。